蒼夏の螺旋

   “感謝してます、激烈にvv”
 


すぐ前のお話でも扱いましたが、
いかにもな語呂合わせ、
11月22日は日本では“いい夫婦の日”とされており。
それからそれから、12月3日は何と“妻の日”とされていて、
日ごろ、家事や育児に頑張ってくれておいでの奥様へ、
その頑張りをねぎらい、無辜の愛へ感謝して、
亭主からチューリップを贈るのだとか。

 “わいふ、サンキューってか?”

これから歳末のあれこれで
いっぱい忙しいって時になんでまたと思いもするが。
だからこその どさまぎでないと
日本のシャイな亭主たちは“ありがとう”なんて
こっ恥ずかくって言えないものか。
それとも…忘年会じゃ何じゃと、呑み会が立て続き、
帰りが遅くなりまくる前にゴマ摺っとけという
予防線ででもあるものか。(こらこら)

 “まあ、クリスマスケーキ自体が、
  そういう罪滅ぼしから始まった品だしなぁ。”

近年隆盛のハロウィン同様、
それほどクリスチャンも居なかった日本で、
俳句の季語になるほどに、
がっつりとクリスマスが定着したのは どうしてかと言えば。
納会だ忘年会だへは ウチのお店へお越しと
熱心にお誘いしまくったその筋の方々が、
お父さんがたが株を下げぬよう、
ご家族にお土産としてこれをと勧めたのがケーキだったから。

 西欧では今夜はクリスマスと言って、
 みんなでケーキ囲んで祝うらしいぞ、と

いかにも女性や子供が喜びそうで、
当時は高級品でもあったケーキを
“付き物だから”と供したことが始まりだとされており。
ちょっぴり堅いスポンジにバタークリームが主流だったケーキが、
今や本場の外国の方々もびっくりの
フレッシュな芸術品とまで持て囃されるまでへ進化したその発端が、
本来 寿司折りみやげの“師走バージョン”だったとはねぇ。(笑)

 “まあ ウチはその辺のケアは ばっちりなんだけど。”

伊達に企画部の一班を任されちゃあいない、ロロノア係長。
当社では別の班が引き受けた、
某チェーンの奥様への花束キャンペーンと、
某社のアソートケーキセット・キャンペーンに、
ちゃっかりとエントリーしてあるから、
当日の午後あたりに両方とも自宅へ届くこととなっているし、

 “あとは、
  この伊勢エビやオマールエビやの海鮮一式を
  特選おせちの調理工場まで何とか届けてだな。”

近海で腕のいい漁師さんが仕留めましたという、
顔の見えるシリーズ“海鮮おせち”Ver.なんてな、
今時のほにゃららな御時勢に何とも微妙なプランを、
出すだけ出して…コネも伝手もないんですどうしましょうと言い出した、
何とも情けない後輩から泣きつかれ。
しょうがねぇなと伊豆を駆け回り、
知り合いの漁師さんたちを拝みまくって船を出してもらって、
ちょいと沖に浮かぶとある島の港から漁に出てもらい。
新鮮で大ぶりな伊勢エビとそれから、
こちらもメニューへ載せちゃったんですというオマールエビを掻き集め、

  ……たは いいのだが。

漁の間は何とか保っていた海だったのに、
いったん港へ戻った途端に荒れまくり。
ブツは冷凍したからまだいい。
12月半ばにでも間に合えば、おせち料理なので支障はないが、

 “俺が戻れないってのは計算外だったなぁ。”

予定していた昨日のうちに戻れなかったのへは、
勿論のこと連絡を入れた。

 『もうもう、この奥州筆頭が〜。』

日頃の行いが出るんだぞ、そおいうのは、と。
あの豪快なルフィにしては神妙な言い方でお叱りを下さり。
無理しないでいいからな、時化(シケ)が収まってから戻ってこいなと、
言わずともなことをわざわざ言ったのは、でも逢いたいというのの裏返しかも。

 “…ってのは、確かめようがないんだが。”

電波の状態も悪いのか、
今日は何と通話どころかメールも出来なくなった有り様で。
ド演歌のPVに使えそうなほどの迫力で、
大人の身長も凌駕せんとの高さと分厚さ、
どっぱんと岩礁へ叩きつける波濤を睨みつけ、
大荒れの海とにらめっこ。
今日はまだ2日だ、当日は明日だから、
それまでに何とか静まれ太平洋よと。
よろめきもたじろぎもしないまま、
岸壁から海を睨んでおいでのお客人へ、
漁師の皆様も何だどうしたと関心を寄せておれば、

 【ばっきゃろーっ、こんのクソ亭主がっ!】

 「ああ"〜√

そんな彼の上空から、
吹きすさぶ大風にも負けじという、拡声器での呼びかけ(?)一声。
誰と名指しはしていなかったが、
聞き覚えのあるどころじゃあない、
忘れるものかという相性が功を奏してのこと、
此処だ此処と言う代わりの悪声で唸りつつ、大荒れのお空を見上げれば。

  ばほばほ ばほばほ ばほばほばほ……と

この大風の中、絶妙な高さにホバリングしている
見るからにいかめしい型式の、垂直昇降機(ヴィトール)が1機。

 「な、なんだなんだっ。」
 「戦争でも始まるんか?」
 「馬鹿いえ、どっかで遭難してる船があるんだよぉ。」

漁師のおじさんたちがてんでに口々に驚きを表す中、

 【 お前、◎◎社の花束ギフトを予約しとるだろうがっ!】

 「ああ〜っ?
  何で知ってるんだ、個人情報だろうがよっ。
  さては産業スパイか、きさまっ

 【 おお何とでも言いやがれ。
  俺だって何が嬉しゅうて
  きさまの生態観察せにゃならんっ

日本語が怪しくなって来ましたが、(笑)
某経済コーデュネイターの
サンジェスト様こと、ルフィ溺愛のお母様が、
夜中に等しいほど真っ暗に雲が垂れ込めた、
この悪天候の、しかも日本の空へ
いかつい軍用機でわざわざ降臨なさった、桁外れの奇跡よ。
多数の目撃者らが見上げている中、
横っ腹のスライド式のドアを全開にして、
スーツの裾をはためかせた金髪痩躯のお兄さんが姿を現し、
ハンドスピーカーを口許へあてがって言うことにゃ、

 【 ルフィへのお届けものは全部チェックしとるだけだっ。】

  どっちにしたって、お母様……。

大荒れの海を挟んで、
岸壁と中空とで大の男が声を張り上げあってる構図は、
どんな映画のクライマックスかってノリ。
ただし、

 “あの兄ちゃん、実は国際手配犯だったとか?”

めきめきと誤解を受けております模様なので、早く話を進めてください。

 【 妻の日に贈り物とは見上げた心掛けだが、
  このままじゃあ間に合わんぞ、きさま。】

 「うっせぇな、まだ判んねぇだろがっ!」

 【 気象衛星で解析したが、
  此処は明後日まで大荒れで、船なんか出せんわっ。】

  *登場する人物事件団体、お天気は全てフィクションです。

と来ての、この仰々しい装備の乗り物の登場ということは…。
びゅうびゅうと大風、ざばりばさりと大波が騒がしい中、
バホバホバホとヴィトールの爆音もにぎやかだというに、
よくも会話が成り立ってるお二人のうち、

 「…っ。」

空中においでのサンジさんがサッと手を振れば、
どこの軍隊の、若しくはレスキュー部隊の隊員さんたちか、
迷彩服の作戦装束も颯爽とした体格のいい面々が、
全開になったままな扉からロープを降ろすと、
それを伝って続々と降りて来始めて……。





 「そいで、ついでに
  仕入れた海鮮一式と一緒に、
  東京まで送ってもらったってか?」

 「おうよ、けったくそ悪い。」

島の方でも当分は
あの映画のような一部始終で持ちきりだろう
奇跡の大脱出を経て。
ずぶ濡れ状態で、
妻の日当日の帰宅を果たしたご亭主と、そのお連れのお兄様。

 『日本じゃあ そんなイベントがあるんだな、
  だったら俺もナミさんへプレゼントしないといかんから。』

なんて、相変わらずなことを言い。
最愛のルフィへはおでこへのちうだけに留め、(「…っ」)
そそくさと帰ってしまったサンジが、そもそも何で来てたんだと。
なあなあと揺すぶられての説明を求められた旦那様。
間に合ったのは良いけど、何か納得行かないと、
微妙なしかめっ面だったのは まま仕方がないとして。

 “まあ、何を贈るか云々は黙っててくれたからなぁ。”

肝心なお楽しみをふいにしては、
せっかく間に合わせてやった意味がなくなるとでも思ったか、
そういうところの筋は通すお兄様であり。

 「なあゾロ、実はサンジと、そんな仲よかったんか?」
 「はあ?」

だって、大荒れの海へヘリで迎えになんて、
俺だってやってもらったことない大活劇じゃんかと、
そこが羨ましいらしい、彼らの呈した大騒ぎの原因様。
無邪気にお眸々をキラキラさせているものだから、

 「…じゃあ、いつか特別なクルーズを計画してやるよ。」
 「ホントかっ?」

そう、普通の“奥さん”と違って、こちらは腕白な坊ちゃんですから。
ふりふりワンピやダイアの指輪なんか要らぬが、
そういった冒険にはイチコロなので、

 「でも大荒れの海でってのは無理だから。」
 「え〜〜〜っ。」

当たり前だ、ルフィ奥さん。
(苦笑)




  〜Fine〜  13.12.02.


  *ちなみに、1月31日は
   そっちも語呂合わせで“愛妻の日”というから微妙微妙。(笑)


**ご感想はこちらvv*めるふぉvv

**bbs-p.gif


戻る